2023年4月20日配信<0510archives>「関西電力事件で役立たずが明らかになった検察OBを日本の企業社会はいつまで重用するのか?」<事件>
政府は、10月18日、会社法の改正を閣議決定、今国会で法案を成立させる方針。目的は上場企業のガバナンス(統治)を強化することで、そのうちのひとつが社外取締役設置の義務化である。
既に、東京証券取引所がコーポレート・ガバナンスコードの設置により、経営から独立した2名以上の社外取締役の設置を求めており、現在約98%が社外取締役を置いているが、法制化でより強化される。
この社外取締役と同時に、「就任前5年間、会社と関係のなかったもの」という規定のある社外監査役も、会社から独立した存在として、厳格な監査が期待されている。
ガバナンスとコンプライアンス(法令遵守)の強化は、今や企業社会では当然と受け止められており、社外取締役、社外監査役の重要性は増しているのだが、一方で適任者は少なく、経営陣の友人知人、シンパの評論家やジャーナリスト、監督官庁OBなどを雇うと、中立性が疑われる。
そこで重宝されるのが検察官OB(ヤメ検)である。
法律の専門家としての見識に加え、企業社会の監視役として粉飾決算、金融・証券犯罪、脱税などに目を光らせてきた実績がある。
つまり“座り”が良く、反論しにくい。
それが「形だけのもの」であったのを示したのが、関西電力事件だった。
森山栄治元高浜町助役から3億2000万円の工作資金を20人の経営幹部が受け取っていたことを突き止めていた社内調査委員会の小林敬委員長は、「個人の問題ではなく、会社の体質」として不問に付した。
関電コンプライアンス委員会の委員でもある小林氏は、元大阪地検検事正で関電との関係は社外監査役を務めた土肥孝治元検事総長との関係によるものである。
土肥氏らの監査役会は、小林委員長の「報告書」で原発マネーの還流を知りながら、「報告書は妥当」として、取締役会への報告も公表もしなかった。
土肥氏は、今年6月、社外監査役を退任するが、後を受け継いだのは佐々木茂夫元大阪高検検事長。――つまり関西検察OBたちは、経営体制のチェック役ではなく守護神なのである。
関電は、10月9日、その甘い社内調査報告書を見直すために、第三者委員会を立ち上げたが、委員長に就いたのは但木敬一元検事総長である。
土肥氏の後輩ながら東京検察OB。ラインが違うとはいえ「先輩の失敗」に踏み込むような精神は持ち合わせておらず、但木氏もまた「検察一体の原則」のなかで生きてきた。
結局、第三者委員会も人選と費用は関電が拠出するのだから中立性は形だけ。関電にとっては、12月中をメドとした報告書が公表される頃には、人々の記憶が薄れ、“穏当な糾弾”となっていることを期待している。
つまり、ヤメ検は使い勝手がいいのである。
社外取締役、社外監査役、コンプライアンス委員会委員など、企業社会に「法的・倫理的な監視」が求められるようになり、その格好の人材供給先がヤメ検となった。
それも、ひとり当たりの就任会社数が多く、とてもまともに経営チェックなどできない。
社外取締役や社外監査役に就いている検察OBリスト(17年3月末)によれば、2〜5社の就任は当たり前。あまりに数が多いので高検検事長以上に限っても、次のようなOBたちが顔を並べている。
◇樋渡利秋元検事総長(ホンダ、トーヨーカネツ、野村證券、鹿児島銀行)、◇大林宏元検事総長(三菱電機、大和証券、日本たばこ産業、新日鐵住金)、◇但木敬一元検事総長(日本生命保険、大和証券グループ本社、ミロク情報サービス、イオン)、◇頃安健司元検事長(東海旅客鉄道、古河電気工業)、◇勝丸充啓元検事長(大陽日酸、シマノ)◇河村博元検事長(石井鉄工所、旭硝子)……。
いうまでもないことだが、これでもほんの一部である。
これに元検事正や各地検の部長、副部長などの幹部で退職したヤメ検を加えればその人数は星の数。いかに彼らが上場企業を“浸食”しているかがわかる。
建前では、彼らの雇用はガバナンス強化のため。それを政府も東証などは、制度化で後押しする。
だが、現実には「関電社内調査報告書」のような代物を作成する際の“権威付け”であり、それを外部に批判させない“監視役”であり、捜査・調査機関が乗り出した際の“ガード役”である。
ガバナンスとコンプライアンス強化のためのシステムが、ヤメ検によって“骨抜き”にされているという現状と、それによって生ずる矛楯をどう解消するか。――論義すべき段階に入っているのではあるまいか。【辰】
- 2023.04.20 Thursday
- 事件
- 20:39
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- by polestar0510