2020年5月2日配信「『殉心』(向田匡志著・青志社)が描いた敬天新聞社主・白倉康夫氏の“正義”」<書評>

 

 

「悪人かどうかは、そん人間ばみる自分が決めるったい」
「どがんして決める?」
「西郷隆盛の『敬天愛人』という言葉ば知っとるか? 天を敬い人を愛するという意味ばってん、天とは真理・神・宇宙んことやけど、先生は“自分の信念”を貫くことやと思うとると。自分の信念――つまり、人生観に照らしあわせて善悪を決める」
 
 長崎・島原半島の雲仙岳山頂で25歳の青年教師が、手のつけられない乱暴者の小学4年生に天草四郎の「島原の乱」を教え、「十人おったら十の正義がある」と、説く。
 
 その小学生、白倉康夫氏が、32年後の1993年、「国賊は討て」をスローガンに右翼系情報紙『敬天新聞』を創刊する。
 
 その昔、「政官財」を監視、注文をつける存在として、右翼から左翼までの闘うイデオロギー集団、同和系や民族系といった反差別運動組織、反社会的勢力という位置づけながら監視役も担った暴力団や総会屋などがあった。
 
 そうした組織や集団は、経済成長に合わせて「昭和」に力を増したが、進捗するグローバリズムと、それに合わせたコーポレートガバナンス(企業統治)、コンプライアンス(法令遵守)重視の流れのなか、「平成」に淘汰が進み、「令和」の今、見る影もない。
 
 そんな世相に抗うように、『敬天新聞』は毎月の発行を続け、毎日、ブログを更新、毎週水曜日には東京・新橋駅頭で街宣活動を続け、「敬天に狙われると怖い」と、恐れられる存在になっている。
 
 4月19日に上梓された『殉心』は、右翼系情報紙として、政府の調査部門、企業の総務担当者、捜査機関、マスメディアの社会部記者などで、知らぬ者のない存在となった敬天新聞・白倉康夫社主の半生記である。
 
 サブタイトルに「安藤組外伝」とあるのは、白倉氏が安藤組元組長の安藤昇氏を信奉していたからで、敬天新聞の題字は書家としても知られる安藤氏の揮毫である。
 
 安藤氏は、戦後闇市時代の渋谷を縄張りに、数々の抗争事件を重ねながら存在感を高め、本人はもちろん花形敬など伝説のヤクザを配下に名を売ったが、出所後の64年、組を解散して俳優になった。
 
 白倉氏は中学2年生の時、安藤氏が主演の自伝映画『血と掟』を観て以来、その風貌と所作にあこがれる。
 
 ただ、出会いは、上京後、国士館大学を中退、警備業、日大アメリカンフットボール部監督・篠竹幹夫氏の用心棒兼秘書、総会屋などを経た白倉氏が、敬天新聞社を立ち上げる直前だった。
 
 憧れの人に会う緊張感は、安藤氏の懐の深さに解きほぐされ、以降、白倉氏は赤坂の安藤事務所に足繁く通い、生き方の“奥義”を学ぶ。それは例えば、次のような言葉である。
 
「男はメンツを売るんだ。値段は自分でつけ、ビタ一文まけちゃならない」
 
 一方で、白倉氏には「人間社会は、すべて恐喝で成り立っている」という人生観があり、企業や宗教法人のような組織、政治家などにケンカを仕掛け、一歩も引かない。
 
 となると、カネにものをいわせるか、ヤクザを使って封じ込めるか、警察に訴えるか。『敬天新聞』に書かれ、街宣をかけられるなど攻撃された側は、様々な手法で逃れようとする。
 
 敬天がウン千万を取ったと噂を流され、記者が襲撃されることがあり、責任者として白倉氏が、恐喝、恐喝未遂、威力業務妨害、名誉毀損などで訴えられることは数知れず、逮捕歴も少なくない。
 
 割に合う商売ではないが、コンプラ強化の波にもめげず恐喝と街宣を続け、各種団体が勢いを失い、暴力団も総会屋も排除されるなか、今や、日本で最も著名な「行動する右翼系情報紙」となった。
 
 その行動原理は何か――。
 
 安藤氏は引退前、「白木屋(後の東急デパート日本橋店)乗っ取り事件」に絡んで知己を得た横井英樹氏を配下に銃撃させたとして8年の実刑判決を受けて服役。その真相を尋ねる白倉氏に、安藤氏はこう答えたという。
 
「カネを持っていながら借金を踏み倒す横井が許せなかった。それを伝えると、横井はこう言った。『すべて合法的に処理されている。キミたちの介入する余地は全然ないんだ』。それで切れた」
 
 守るべきは「法」ではない。自分のなかの信念から来る「正義」――。それは、敬天愛人を説いた恩師の言葉と同じだった。
 
 組織に求められるのはコンプラとガバナンスになり、逆に言えば「合法」であれば何でも許される。総会屋以上にカネに執着するヘッジファンド、なかでもアクティビストと呼ばれる「物言う株主」は、経営上の欠落や内部留保に目をつけて攻撃、自社株買いや配当を迫り、短期利益で株価を上げると売り逃げて巨利を稼ぐ。
 
 その株主至上主義に侵された企業の株価は上がるが、労働分配率や投資比率は下げられ、企業の将来や従業員の満足度を奪う。これも株の力を背景にした“恐喝”だが、合法ゆえに許される。
 
 そうした判断基準や備えは、白倉氏にはない。
 
 また、暴力団をバックにすることもなければ、警察権力におもねることもなく、愚直に恐喝を続けて体を張る。
 
 そんな「内なる正義」を大事にする白倉氏を買った安藤氏は、「俺に自伝を書かせろ」と、言って準備に入っていたものの、2015年12月16日に逝去した。享年89歳。
 
 その遺志を継いだのが、安藤氏側近の向谷匡志氏。アウトローにも通じた作家だけに、「法」に左右されない2人のクラッシックな生き様が、うまく共鳴して描かれている。【🐮】 

 

<付記>『殉心』で描かれた白倉康夫氏には、自身が渾身の筆を奮い、田中英寿・日本大学理事長の一強独裁体制に真正面から 疑問をぶつけた『立ち上がれ日大マン』(人間の科学新社)なる著書がある。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 


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