2019年10月8日配信「昭和回顧録・あの人に聞く企業総務部物語」<対談>

――かつては「企業防衛」の窓口として活躍した総務部ですが、コンプライアンス全盛の現在は「盲腸ポスト」になってしまいました。彼らが対峙してきた総会屋が絶滅しては、後世に語り継がれる「味のある総務物語」は、ほとんど聞かれなくなりました。今日は昭和史発掘といえばオーバーですが、今なお名総務として語りつがれる元大手証券総務部長に当時の話をお伺いしたいと思い、足をお運び戴きました。よろしくお願いします。

 

Y氏「久しぶりだな。しかし、君はあんまり変わらないな、私と違ってオツムも健在だし…(笑)」

 

――いやあ、もう身体中がガタガタですよ。それに引き替えYさんは…。

 

Y氏「冷やかしちゃいかんよ(笑)。ことしで米寿、すぐそこにお迎えが来てるよ」

 

――昨今の風潮の良し悪しはともかく、昭和の時代の総務部は面白かったですね。

 

Y氏「すべてに人情があったからなあ。今では辛かったことも、苦しかったことも、すべてが懐かしい思い出だよ」

 

――私は銀行、証券など金融関係の取材が多かったのですが、“物語”が多かったのはF銀行D銀行ですね。

 

Y氏「確かに、F銀行の総務部の話は、ウチにもよく聞こえてきたよ。確か斎藤ナントカ、そうだ斎藤征一というのは豪傑だったらしいな」

 

――そうですね。彼は自行の役員のスキャンダル情報を総会屋に流しマッチポンプで裏金を作る、あるいは水増しした領収書を書かせて差額を懐に入れる、さらには暴力団に系列のカード会社のクレジットカードを作ってやる、賛助金代わりに航空会社の株主優待券を提供する、果ては懇意な暴力団幹部が経営する飲み屋でドンチャン騒ぎをするなど“ノンキャリの小悪党”の“武勇伝”は豪快でした…(苦笑)
 
Y氏「身を賭した“前線部隊”での活躍の甲斐あって銀行退職後は、枝の枝ながらグループ会社の社長になったなんだから大したものだよ」

 

――彼ほど豪快ではないにしろ、当時の企業総務部は、どこも同じようなことをやってましたからねえ。隔世の感ありですね。
 
Y氏「総務部にだって予算はあるが、不足することは再々だ。領収書が貰えない相手だし、火急の時には、株主優待券やビール券、タクシー券を金券屋に持ち込んだり、社内で保管する美術品を沈めてウラ金を作ったもんだよ」
 
――確かに、毎日相手にするのは“ややこしい輩”ばかりですものね(笑)
 
Y氏「総務部の存在意義は『企業の名誉と役員を守る』ことだからね。今じゃ、ちょっとしたことでもすぐに警察に相談するけど、私たちの時代は、つけ込まれるような不祥事を起こしたこと自体が問題だったし、それが表沙汰になることを恥としたから、カネで済むことならできるだけ隠蔽するのが総務部の使命だったからなあ。コンプライアンスなんて、言葉自体なかったし…」
 
――総務部って、企業の体面を保つための、言葉は悪いけど “企業の痰壺”みたいなものですね。 そんな総務部員の「生きがい」って何なのですか?
 
Y氏「痰壺は酷いよ。せめて“縁の下のガードマン”とか“トラブルシューター”と言って欲しいなあ(笑)。――総務部員の生きがい?――そうだな。強いて言えば、株主総会後に普段は顔を合わせることも出来ないトップから直々に『ご苦労さん。今年も平穏に総会を終えることが出来ました』って労いの言葉を掛けて貰えることぐらいかなあ(笑)」
 
――過去の遺物となった滅私奉公的生きがいですね(苦笑)
 
Y氏「まあ、昔気質の人間にはそんな言葉だけで『よし、頑張ろう』って思えたんだから、時代は変わったよなあ。――それはそうと、斎藤の話が出たついでに思い出したんだけど、確か副部長だったと思うが、彼の上司だった山崎猛というのも見かけは温厚だが、保身に長けたエエ根性の持主だったな」
 
――へーッ! その山崎も根っからの総務部育ちですか?
 
Y氏「いや。確か青山あたりの営業店から異動して来たんじゃなかったかな。それだけに胆力がないというか、良い意味でのトッポさが無いんだな。斎藤みたいな濁濁併せ呑む(?)“悪党”を旨く利用すればいいんだけど、何かあるとすべからく上司に相談するんだな。斎藤にすれば存在を無視されたみたいで面白くないから、肝腎なところで総会屋や暴力団から仕入れた重要な情報を上に上げないどころか、反対にヨタ話を吹き込むんだから(苦笑)陰険だ。結局、山崎は広域暴力団のフロント企業の策略に乗せられて融資した10億円が焦げ付いてしまったんだ」
 
――斎藤にしてみれば「ザマァ見ろ!」というところでしょうが、それで山崎はどうしたのですか?
 
本因坊師「“飛ばし”だよ。何しろ山崎は、それまでは旧帝大でなければ役員になれないとされていたF銀行で“M大初めての役員”と期待されていたから必死だ。懇意にしていた外部の人間に不良債権の肩代わりを依頼して10億円を融資、それを回収して帳尻を合わせたんだ」
 
――なるほど。10億円は大金だけど、それだって銀行のカネですものね。自分の腹は痛まないし、暴力団相手の不良債権は消せる。万々歳ですよね。さすがはヒラとはいえ役員になるだけはありますね。
 
Y氏「不良債権の“飛ばし”も“付け替え”も当時はどこでもやっていたことだ。ウチだってしょっちゅうやってたんだから、別に山崎のやったことを云々するつもりはない。私が問題にしたいのは、暴力団に対する不正融資を飛ばしたことが表沙汰になりそうになるや、被害者に変身。そのうえ10億円を肩代わってくれた恩人まで共犯だとして告訴したことだ」
 
――マジですか! 救いの神を告訴するなんて無茶苦茶ですね。
 
Y氏「そうだろ。いくら役員ポストが目の前にぶら下がっているとはいえ、恩人を騙し討ちにするなんて山崎の卑劣過ぎる仕打ちは人間として絶対にやってはいけないこと(怒)。結局、デッチ上げ事件のドサクサに紛れて暴力団に対する10億円の不正融資はウヤムヤ、その功績を買われた山崎は晴れて取締役に昇進。大型店のS支店、K支店の支店長を歴任して本店の取締役とトントン拍子の大出世。退職後は系列の人材派遣会社の社長を経て、つい最近まで大手機械メーカー・Aエンジニアリングの役員を務めていたんだからエゲツない話だよ」
 
――「不正融資をチャラにしたうえ助けてくれた恩人を嵌めて自分は出世の階段を上る」――聞けば聞くほど山崎の非道ぶりには腹が立ってきました。 (続く)

 

 

 

 

 

 

 


コメント
斎藤征一?
  • MIZUHO
  • 2013/03/18 11:17 PM
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