2019年1月8日配信「日産事件、ゴーン再逮捕は吉か凶か?――地検特捜部70年の盛衰史」<事件>


 裁判所の思いがけない“造反"にあって、カルロス・ゴーン被告が保釈されそうになった12月21日、東京地検特捜部は特別背任容疑での再逮捕、という“荒技”を繰り出した。

 最初の有価証券報告書への役員報酬の不記載と同じように、いかにゴーン容疑者が「日産自動車」を“食い物”にしたかという検察のリークをもとにしたマスコミ報道が連日のように続いている。

 私的な投資で発生した評価損18億5000万円を自身の資産管理会社から日産に付け替えたうえ、その際に“世話”になったサウジアラビアの知人に、「委託費」などの名目で1479万ドル(現在のレートで約16億円)を振り込ませた――。

 確かに、露骨な特別背任行為である。

 報道によれば「海外の連結子会社の中東日産から、業務委託費など偽装しやすい名目にして、3〜4億円ずつ分散して送金した」という。

 だが、ゴーン容疑者は、相変わらず強気に容疑を否認。「損失の付け替えでは日産に実害は出ておらず、知人への送金はトラブル解決などのために業務委託をしていた」と、主張している。

 特捜検察には捜査権と公訴権がある。

 自らが逮捕した容疑者は、自らの手で起訴するのは当然のこと。公判では、金融商品取引法違反(有価証券報告書の不記載)と、会社法違反(特別背任)の二つで裁かれるが、合法にこだわり、部下などにそう指示したハズの「ゴーンのカベ」を突破できるのか。

 「不記載」についてゴーン被告は、弁護士のグレッグ・ケリー被告や、やはり弁護士で今回は司法取引で敵に回ったハリ・ナダ専務執行役に、しつこく「合法的にやれ」と命じていた。

 おそらく今回も同じだろうが、08年のリーマンショック後の付け替えと09〜12年にかけての振り込みが、直接、つながる証拠はない。

 ブラジル、フランス、レバノンと3ヵ国の国籍を持ち、紛争地帯レバノンで大学までを過ごしたゴーン容疑者は、違法が身を滅ぼすことは百も承知。合法の仕掛けは怠りなくやっているに違いない。

 今回、スキーム作りに関わったのが、司法取引に応じた二人のウチのひとりで、秘書室元幹部であることが特捜部の“強み”だが、この容疑には、「自己または第三者の利益を図る目的」を立証しなければならないという高いハードルがある。

 加えて、サウジアラビア人を共犯にしなければならないが、「資産家の王族」という人物の捜査などできるのか。

 実質的に初めての「司法取引案件」となったことで、検察に失敗は許されない。

 万一、戦いに敗れれば、ゴーンの逆襲とそれに乗るルノーの攻勢にあい、日産経営陣は追い詰められ、それは日本の国益に沿わないばかりか、今後の司法取引を利用した捜査に重大な影響を及ぼす。

 それが、一度は諦めた「特別背任での逮捕」を復活させた理由である。

 特捜部は、マスコミを引き連れて、世論をリードしながら自分たちの思い通りの決着を目指すかつての唯我独尊組織に“先祖返り”した。

 そうした姿勢が吉と出るか凶と出るか――。

 2018年は、特捜部誕生から70年目の年だった。

 旧日本軍の不正を取り締まる陰退蔵事件捜査部として47年11月に発足。昭電疑獄、炭管疑獄などの摘発を経て存在価値を認められ、49年5月、東京地検特捜部となる。

 そこからは、政官財の不正摘発を任務とするだけに、浮沈の連続で勢いよく捜査着手し、国民の喝采を浴びるかと思えば、調子に乗って突き進み、政界からの逆襲、無理な捜査への国民的批判を浴びて失速する。

 戦後の混乱期、政治家の連続摘発などで恐れられる存在となり、54年、造船会社からの賄賂を多数の政治家が受け取っていた造船疑獄では、佐藤栄作・自民党幹事長の逮捕許諾請求を出した段階で、法務大臣が指揮権を発動、事件は潰された。

 そこから復活を遂げ、76年、「今太閤」といわれた実力者の田中角栄元首相を逮捕したロッキード事件では、「闇将軍」となった角栄元首相が、法相を自派閥で独占、以降10年、「検察冬の時代」に突入した。

 85年、「闇将軍」が脳梗塞に倒れてから、政界捜査が復活、砂利船汚職、撚糸工連事件などを経て、「政・官・財・マスコミ」を未公開株で汚染していたリクルート事件に着手、喝采を浴びた。

 以降、特捜部は「黄金期」を迎えたものの、98年、総会屋事件を機に、旧大蔵省と日本銀行の官僚たちを接待容疑で逮捕(大蔵・日銀接待汚職事件)、「接待は潤滑油で慣行。特捜部はやり過ぎだ」という批判を浴び、しばらく小休止に入った。

 捜査手法の見直し、特捜検事のローテーション人事などもあり、全体に捜査力の衰えを指摘されるようになった09年頃から、大阪地検と東京地検のそれぞれ特捜部が、特捜弱体化の声に反発するように“無理筋”の案件を手掛けるようになり、いずれも失敗した。

 「西」が厚労省局長を狙った村木厚子事件であり、「東」が小沢一郎・旧民主党幹事長を狙った陸山会事件である。

 なかでも大阪地検特捜部は、証拠資料まで改ざんしていたことが発覚、特捜部長以下が逮捕された。

 以降、「厳冬期」といわれる状況となったが、その陰で検察幹部が腐心していたのが、新しい捜査手法の司法取引を獲得するための刑事訴訟法の改正だった。

 ゴーン事件の実体は、「ルノー」に「日産」を併合させないという国策捜査であり、グローバル化のなか海外要人でも逮捕するという意気込みを見せた捜査であり、司法取引を使った絶対に負けられない捜査事例の第1号である。

 掛かっているのは71年目に入った特捜部の意地と名誉であり、存在価値である。

 

 はてさて賽の目はどちらに出るか?――吉と出て当然、凶と出れば地獄である。【戌】

 

 

 

 

 

 

 

 


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